4つの研究テーマについて

本研究室では,以下の4つの研究テーマを中心に,
理論だけに留まらず社会実装を念頭に研究を進めております

研究内容

山本 透

制御工学は,身の回りに存在する多くのシステムの効率化・自動化を可能にし,省エネルギーや省力化を通じてコスト削減やSDGsの達成にも貢献する,極めて実践的かつ社会的意義の大きい学問です。従来の制御系設計では,対象システムのモデルに基づいて入力を決定しますが,動作環境の変化によりシステム特性も変化するため,複数のモデルの構築と切り替えが必要となり,設計は非常に煩雑になります。この課題に対して,入出力データや動作条件,制御パラメータをデータベースに蓄積し,AIによる学習を通して,最適な制御パラメータを自動算出する「データベース駆動型制御法」を新しく開発しました。この手法は,過去の知見を活かしながら新たな環境にも柔軟に対応できることから,従来に比べて高精度かつ安定した制御を実現します。

現在,この技術は自動車,建設機械,射出成形プロセスなどへの応用に向けた実証実験が進められており,さらなる展開が期待されています。加えて,データベースに蓄積された情報は,制御のみならず故障予測や運用最適化といった領域にも応用可能であり,最終的にはこれらを統合し,対象とする実システムのあるフィジカル空間と膨大なデータから構成され目的に対応して機能するサイバー空間とを効率的に接続する「データベース駆動型サイバー・フィジカルシステム」の構築を目指しています。

企業の現場で生まれる実課題に基づきながら,制御技術の応用範囲を拡張し,社会実装可能な技術へと昇華させていくことが,研究の中心的なテーマとなっています。産業界との密接な協働を通じて新たな技術価値を創出し,社会に資するイノベーションへとつなげていくことを大切にしています。多数の企業と連携しながら進める研究開発の中で,研究室で生み出した制御アルゴリズムが実システムに実装された瞬間には,学生たちとともにその達成感を分かち合い,「ものが動く」感動と喜びを実感しています。制御の世界には,学理と実装が結びついた,深く面白い魅力が詰まっています。

【卒業研究テーマ】

・AIと制御の掛け合わせによるデジタルツイン(デジタルトリプレット)の構築

・制御性能評価機構を内包するデータベース駆動型制御システムの構築

・データ駆動型サイバー・フィジカルシステムの構築

 

図 データベース駆動型サイバー・フィジカルシステム

研究内容

研究テーマ:「モデル」と「データ」を融合したスマート制御システム設計

 

近年,製品やサービスの高度化・複雑化に伴い,制御システムの設計には,高い透明性や説明可能性,個別最適化,さらには環境適応性が求められています.特に産業界では,複雑なシステム開発において,モデルを活用するモデルベース開発(MBD: Model-Based Development)が積極的に導入されています.しかし,実際の開発現場では,理論モデルと実際のシステムの動作との間に,ずれ(モデル誤差)が生じます.特に,複数のサブシステムが連携する大規模なシステムでは,それぞれのずれが累積し,全体の制御性能に深刻な影響を与えることが課題となっています.一方で,実運用から得られるデータを制御器の設計や調整に活用する「データ駆動型制御」も注目されていますが,こちらも単独では一般性や設計の透明性に課題が残ります.そのため,モデルとデータを融合させた制御システムの設計が強く求められています.

脇谷グループでは,モデルベースの制御系を基盤としつつ,データを機能拡張や環境適応のために補完的に活用するアプローチを採用しています.この方法により,設計の透明性を保ちながら,実環境への柔軟な対応や個別最適化を実現することが可能です.具体的には,各サブシステムの動作を理想的なモデルに近づける「GMV(Generalized Minimum Variance)補償器」の設計や,使用するユーザーごとに望ましいシステム特性を最適化する「パーソナルフィット制御」に関する研究を進めています.これらの研究は,将来的な社会実装を視野に入れ,企業との共同研究などを通じて発展させています.

また,研究を通じて得られた知見は,MBD教育プログラムとして体系化し,大学生や社会人を対象に提供しています.基礎理論からツールの活用,現場での応用までを段階的に学べる環境を整備し,産学連携で得た知識を教材へすばやく反映することで,次世代エンジニアの育成にも力を入れています.

研究テーマ

・自動車を対象としたパーソナルフィット制御系の設計とその実証評価

・パフォーマンスモニタリング指標を搭載したGMV補償器の設計

・学習者モデルと学習データに基づくスマート学習支援システムの設計

研究内容

近年,日本は国内総生産(GDP)が高いにもかかわらず,幸福度が低いという問題が指摘されています。内閣府の調査によると,物質的な豊かさと心理的な豊かさの間に大きなギャップが存在していることが明らかになっています。このギャップを埋めるためには,すでに高度な技術を備えた「物」が,人の心理指標を考慮し,心の豊かさを向上させるように機能することが求められます。

 

例えば建設機械の場合,心理指標(快,不快など)に応じて応答性を適切に調整することで,操作時のストレスや疲労を軽減し,生産性の向上が期待できます。熟練者には応答性を速く,非熟練者には遅くするといった,個々の操作者に合わせた調整も可能となります。

 

しかし,心理指標を活用した技術の研究は主に製品のデザイン評価や設計といった静的な分野に限られており,心理指標に動的にアプローチする研究はまだ十分に進んでいません。したがって,制御工学的アプローチを用いて心理指標を向上させるアルゴリズムを開発することが重要です。こうした技術の開発により,機器や人がより効率的かつ心理的負担を軽減した状態で作業できるようになります。

 

本研究では,「予測データの生成」「心理指標の構築」「心理指標と機器性能の評価」という3つの視点を中心に研究を進めています。人のモデル化は困難であるため,データベースを核としたデータベース駆動型制御法を基盤として用いています。これにより,限られたデータから予測し疑似的にデータを増やすことで,データベースの規模を拡大できます。さらに,人の心理評価や機器性能の評価を向上させるため,データベースを活用した制御パラメータ設計の研究も進めています。これにより,機器の動作が操作者の心理状態に適応し,ストレスや疲労の軽減が期待されます。

このように,本研究は心理指標を活用した動的制御技術の開発を通じて,物質的豊かさと心理的豊かさのギャップを埋めることを目指しています。今後も,より精度の高い心理指標の構築や効果的な制御アルゴリズムの開発に取り組み,社会実装を目指していきます。

(上記テーマ以外にも研究を進めております)

 

【研究テーマ】

・予測データに基づくデータベース駆動型制御系設計

・心理指標に基づくデータ駆動型制御系設計

・制御性能評価に基づく制御系設計

 

研究内容

インフラの老朽化や自然災害によって、道路、橋、送電線、水道などのライフラインが寸断された場合、迅速な復旧が要求される。このとき、復旧作業の最前線で重要な役割を担うのがクレーンである。しかし、建設業界では労働人口の減少が急速に進行しており、クレーンのオペレータも今後深刻な人手不足になると懸念されている。災害に強い持続可能な社会を実現するためには、この問題を解決する必要がある。

クレーンの操作で最も難しいのは吊り荷の振れ止め操作である。この操作の自動化が実現できれば、操作経験の少ない非熟練オペレータへの強力な操作アシストとなる。すなわち、クレーン振れ止め制御の自動化は、オペレータの人手不足問題の解決につながる。

本グループでは、信号処理を基盤とした独自のアプローチにより、クレーンの振れ止め制御の自動化を目指して研究を行っている。

 

・研究テーマ

(i) クレーン吊り荷の位置推定のための音波センサネットワーク

吊り荷フックに取り付けたスピーカから発生させた音波をジブ上に配置した複数マイクロホンで観測し、観測音波の位相差から吊り荷位置を算出する技術を開発している。吊り荷位置が推定可能となれば、その位置情報をもとに振れ止め制御が実現できる。

 

(ii)  ディジタルフィルタの低演算化

帯域通過器,n階微分器,ヒルベルト変換器などのディジタルフィルタの設計とその低演算化に関する研究を行っている。これらは、クレーンにおいて、音波の雑音除去、吊り荷の速度推定、音波の位相推定に利用できる。また、これらのディジタルフィルタは、スマートフォンなどのICT機器においても利用されている技術である。

 

(iii) 深層学習を用いたクレーン吊り荷の振れ止め制御

吊り荷の揺れを減少させるような操作量を深層学習によって決定することを目指した研究である。ここでは、本グループの独自技術である、(i)音波センサネットワークや(ii)ディジタルフィルタの特性を考慮した深層学習の最適化について研究を行っている。